第2回 教科学習の教育心理学的視点
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1. 学習についての心理学の考え方
1-1. 行動主義の学習観
客観的に観察可能な行動を対象として学習のメカニズムを説明しようとする考え方 https://gyazo.com/fbf0b485fffcc572b413dabda2ac7833
1-2. 行動主義とプログラム学習
オペラント条件づけの考え方に基づいて、スキナーが開発
ある学習内容に関わる課題群を目標到達までの全体構造にしたがって細分化し、系統的に配列する
系統的な課題群に回答しながら、徐々に学習を進めていけば、学習目標に到達
プログラム学習をオペラント条件づけの考え方で捉えると
強化子: 正答によって得られる達成感や喜び、教師などの賞賛 効果的なプログラム学習が成立するための原則
スキナー箱の実験ではネズミの自発的な反応が学習成立の前提になる
学習者が積極的に課題に取り組むことが前提
学習者が課題に解答をしたら、すぐに正誤を知らせる
誤りの定着を防ぐことが目的
目標までの課題を細分化すること
誤答を防ぐため
着実に目標に到達させるため
学習速度の個人差を考慮
プログラム学習の考え方に近い身近な例
類似の課題を繰り返し解くこと
難易度の低→高の配列
徐々に目標の達成が目指される
スキナーが考えたタイプ
1種類の課題群とその系列から構成される
誤答の種類や個人の特性に対応した複数の課題系列を用意し、学習目標への到達を目指すタイプのもの
学習者の事前の学力などの個人差に応じて誤答の種類もいろいろありうる
学習者によっては段階を飛び越えて、次の課題に進むことのできる者もいる
プログラム学習は一斉授業や教師手動の授業に対する批判として生まれてきたもの
当時としての意義
学習者の積極的な学習参加、個々の学習者の尊重、すべての学習者の目標到達の保証などを重視した点
反面、個別の学習を前提にしていることから、通常の一斉授業にはなじまない面もある
1-3. 認知主義の学習観
学習を新しい知識の獲得、知識間の構造化など認知構造が変化することと捉える
外からの情報が頭の中でどう処理されるのかに焦点
外から見える行動は情報処理の仕方の反映と考える
教科の学習で認知主義の考え方が前面に出ている
教師が周到に用意した課題に基づき、学習者の主体的な認知活動によって、新たな概念や法則を学習者自身に見出させていくという教授法
いわば研究者が法則などを発見する過程をたどり、その発見を再現できるよう計画された授業
学習者は自らの既有知識を選択肢し、使用していくといった能動的な認知活動が行われ、新たな知識が獲得される 1-4. 状況主義の学習観
状況主義ではコミュニティに十全に参加できるようになっていくことが学習だと考える コミュニティは何らかの実践を伴うという性質をもつ
学習の社会的な側面や状況文脈を重視し、学習はコミュニティの中で他の人との相互作用を通じてなされ、具体的なモノやコトに依存して成立すると考える
e.g. 路上の物売りの子どもは金額やおつり計算ができる
同じ計算を数式の形で出題すると成績はふるわない
その子どもたちの学習した算数は、そのモノ(商品)やコト(売買)に特化した形で行われる状況文脈に基底されたもの
こうした現象は状況主義の考え方の妥当性を裏付けるもの
通常の学校教育について、状況文脈を考慮していないことが批判の対象になる
e.g. アメリカの山岳地帯の辺境に住む子どもを対象にした調査の話(滝沢, 1984) 減法の問題を課した
「君が10セント持っていて、お菓子屋さんでアメ玉を6セント買ったら、いくら残るか」
「僕は10セントも持っていないけれど、もし持っていてもアメ玉を買うのには使わないよ。だって、ママが作ってくれるんだもの」
「お父さんの飼っている10頭の牛を君が牧場に連れて行ったら、6頭が迷子になってしまった。君は何頭の牛を家に連れて帰ったか」
「僕の家では牛は飼っていないけれど、もし飼っていても6頭いなくなったら僕はもう家に帰れないよ」
さらに質問を変えても同様な答えが返ってきた
日常の文脈と関連付けて算数をとらえている
e.g. 日本の小学生を対象に$ 4\times8=32という乗法の問題をつくらせた調査(佐伯, 1989) 九九は小学2年生の学習内容
適切な問題を作ることができたのは3年生で44%、6年生でも48%
不適切な問題
「スズメが4羽いる電線に8羽とまっていました。電線には何羽とまっていますか(3年生)」
「リンゴが4つあって、8つのナシをかけたらいくつでしょう(5年生)」
作られた不適切な問題を解かせると、解けないというものは僅かであり、多くは2宇野数字をかけ合わせて答えを出してしまった
日常の文脈と切り離されたものとして算数をとらえている
状況主義ではこのような在り方は問題となる
1-5. 状況主義と総合的な学習の時間
学校で状況文脈、とりわけ日常の文脈と切り離された学習が行われていることについて、次のようなことが問題となる
日常の文脈と乖離した知識は実感を伴わないため、結果として詰め込み型のものにならざるを得ず、応用も利きにくい
日常の学習では何らかの目的があって、その内容を学習しようとするのに対して、学校での学びは学習者の側にそのような目的がないことが多く、学習に対する動機づけを欠く
実際の体験を捨象し、言語を媒介にした学習であるため、実感を伴った学習になりにくい 重視すること
2. 体験による学習
自らの課題であれば、その解決に向けた学習は学ぶ必然性があるため動機づけが伴うことが期待できるし、体験を通じた学習ならば、その体験に付随する状況の中での学習になり、また体験によって実感を伴った学習になることが期待できる 状況主義の考え方に合致する
コミュニティの中で互いが知的資源として互恵的な関係の中で成立する
現在、協同学習は学校教育でも浸透し、その効果を報告する教育心理学研究も多い
2. 授業の形態と方法
2-1. 授業形態としての協同学習
授業形態と方法の2つの観点
両者は明確に区別できない面ももつ
授業形態がツールとしての側面が強い
授業方法は授業構成に関わるもの
授業形態で、小学校や中学校を中心に多く取り入れられているのが協同学習
一般に小集団を活用し、学習者が一緒に課題に取り組むことによって互いの学習を最大限高めようとする授業形態
ただし、小集団で学習をすれば、それが直ちに協同学習だとはいえない
1. 集団のメンバーが互恵的な協力関係にあることの自覚
2. グループの目標に向けての個人の責任の自覚
3. 活発な相互交流
4. 対人的スキルや集団運営スキルの発揮
5. 活動の結果の評価と改善
協同学習のタイプ
小集団で議論をして問題解決を目指すタイプのものだけがあるのではない
学習者が教師役と生徒役を交代して教え合う
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各エキスパート・グループでは、グループによって異なる資料が用意されており、それを学ぶ
各エキスパート・グループに用意された資料の内容を合わせるとジグソー・グループに課された課題の解決ができるようになっており、各メンバーはエキスパート・グループで学んだ内容をジグソー・グループに持ち寄ってそれぞれのメンバーの得た知識を統合することで問題解決に至る
2-2. 授業を援助するICT
2017年告示の学習指導要領では、情報活用能力が言語能力とともに学習の基盤となる資質・能力と位置づけられた 小学校ではコンピュータの基本操作を修得する学習活動や、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力の育成のための学習活動を実施することが明記されている
プログラミング的思考だとプログラミングを学ぶと勘違いされがちなので回りくどくなってるんだろうmtane0412.icon 授業においてのICTによって活用のメリット
学ぶ側: 総合的な学習の時間で設定したテーマについて探求するときのように、学習をすすめる上での情報収集に大きなメリットがある
教える側
国内外の学校間で協同学習を実施することも可能
発想の広がりや学習意欲の喚起などに効果が認められたという
現実には観察したり操作したりできない事象をコンピュータ上でシミュレーションして学習者に提示できる
反転学習には多様な形態があるためその定義は難しいが、従来の授業は教師が教材を提示し、学習者が学習するという形態が一般的であったのに対し、反転学習では授業に先立って学習者が教材を学習しておいて、授業に臨む
その一般的な授業の進め方
事前に学習者に家で教師の説明などのビデオを見せておき、当該の内容を学習させておいた上で、本番の授業では学習者同士の討論や問題解決に取り組ませようというもの
教師は討論や問題解決の支援や助言者の役割を担う
反転学習の効果
討論や協同での問題解決の過程で学習者同士のやりとりが活性化すること
個別のニーズに応えられるようになることなど
事前に内容に接しているため、ビデオの学習で不明であった点などについて本番の授業で質問ができる
現在反転学習は家でインターネットを通してビデオを視聴できる環境を用意しやすい大学教育を中心に、我が国でも行われている
2-3. 授業の方法
授業の方法としてプログラム学習と発見学習
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学習者が学習内容の意味についての理解を欠いたまま丸暗記するような学習
学習者にとって学習内容の意味が理解されているような学習であり、学習者の認知構造に関連づけられたり、取り込まれたりするような過程をたどる学習
反転学習と類似の考え方に基づく
反転学習は学習者があらかじめ一定の知識をもった上で、それらの知識を土台にすることでより深い学習が成立することを狙ったもの
学習における習得の過程と探求の過程は区別して考えるべきであり、図2-3の「予習-授業-復習」の習得サイクルで基本となる知識や技能を教師がしっかり教えて身につけさせた上で、右側の探究的な課題によって問題解決や討論を行うことが大切で、両方のサイクルが循環的に回ることによって理解がより深められるという
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こうした提案には、特に小学校を中心に「教師主導」というレッテルの下に、教師が学習内容を教えること(受容学習)が過度に忌避されている現状に対する問題提起としての意味がある この他にも日本の民間教育団体の開発した個々の学習内容に密着した授業方法の提案
「(解答が分かれるような)問題→予想・仮説→討論→実験」の過程の積み上げを経て、学習者が法則を見出していく(たとえば、板倉, 1997) 知識をルール化し、そのルールを日常のさまざまな場面で活用できるようになることを目指した工夫のある教授法が考えられている(高橋・細谷, 1990) いずれも理科などの学習内容に即した授業法が具体的なテキスト(仮説実験授業では授業書)という形で提案されており、実践に即した授業方法の提案になっている
3. 教科学習の教育心理学研究に必要なこと
3-1. 教育心理学と教科教育学
教科学習における教授・学習過程の研究は、教育心理学だけでなく教科教育学においても行われている 両者の研究内容に明確な違いがあるわけではないが、一般に
教育心理学では学習内容についての理解や記憶といった認知や動機づけのメカニズムの解明に焦点が当てられている 教科教育学では個別の学習内容の習得や動機づけの喚起を促進するための方略の解明に関心が向けられる傾向がある 仮にある学習内容についての認知や動機づけのメカニズムが教育心理学で明らかになった場合でも、その知見がどの範囲の学習内容について該当するのかについて、丁寧に考察していくことが必要
教育心理学で、ある学習内容を対象とした理解や動機づけなどのメカニズムが解明されれば、その知見が他の学習内容についても利用できるかもしれない
その一方で、ある学習内容についての理解や動機づけなどは、その学習内容に固有のものであるということも考えられる
学習者の特性についても同様なことがいえる
研究で得られた知見はその研究の対象となった学習者たちについてのもの
別の学習者たちについて該当するかどうかは必ずしも保証されない
研究の対象になった学習者たちの特性を明らかにして、どういう特性をもった学習者に当てはまりそうなのかについての考察も必要になる
3-2. 学習内容を巡って
教育心理学の教授・学習過程研究と教科教育学の研究との違い
実証性を重んじる教育心理学では、実証的なデータに基づいた議論がしにくい学習内容の意味といったことは俎上に載りにくい
教科教育学はその学習内容を取り上げる意味といった面にも関心を寄せる
しかし例えば、学校教育で教科学習が行われる目的が、そこで得た知識や技能、態度の日常生活の活用であることに鑑み、その学習内容がどの場面で、どのように活用できるのかといったことを認知のメカニズムの面から探り、その学習内容の意味づけをしていくことも可能
従来そうした研究はほとんどない
教育心理学の課題と言える
ある学習内容について学習者の理解を促進するような教授法を開発しようとする研究では、その学習内容自体についての理解が研究を進める上で必須
小学校3年生の理科の「植物の成長と体のつくり」の単元では、種子植物が根・茎・葉からできていることを学ぶ
「先生、ダイコンには茎がないと思うんだけど」と問われたらどう答えるか
このような疑問に対して子どもたちが納得できるような教授内容が含まれないと、わかりやすい授業にならない
小学校5年生の社会科では、水産業について、我が国の近海は海流同士がぶつかりあう潮境や大陸棚といった自然環境に酔って、よい漁場になっていることが取り上げられる
「なぜ、潮境だと魚が捕れるんですか」
学習者にとってわかりやすい授業を開発しようとすれば、学習内容についても深く理解しなくてはならない
研究者位自身も当該の単元の学習内容についてよく知っておくことが必要であるし、場合によっては当該分野の専門家の協力を仰ぐようなことも必要になる